魂ハ細部ニ宿ル。を終えて。後編
5月12日(土)から5月20 日(日)まで、EEL Nakameguroで開催された<ミャオ族の刺繍展>。
今回、この展示会を開催してくれたミャオ族の服や布を買い付けられている坂井氏に、ミャオ族とは一体どのような民族であるのかをインタビューした後編。
「邪気は布目から入ってくる」
―なぜミャオ族は、生地や服にここまでの高密度な刺繍をするのですか。
彼らは、「邪気は布目から入ってくる」という古来からの言い伝えがあるんですよ。だから隙間を作らずに全部に刺繍をして、その邪気をはねのけるものとして刺繍をしたんですよ。母親が自分の子供を守るために、子供用の帽子や背帯に細かい刺繍をしたものが多く有るんですが、それもそういった子を想う母親の願いが込められてるんですよね。ミャオ族以外ではインドでも、ミラーワークというガラスをあしらった生地がありますが、あれも同じように邪を祓う、跳ね返すという意味がありますね。
「彼らは、わざと完璧には刺繍しないんですよ」
とても興味深い話があるんですが、彼らはたとえばこの刺繍一つ作るにしても絶対完璧には刺繍しないんですよ。どこか一箇所わざと残したりとかね。それはなぜかというと、完璧なものを作っちゃうとそれは自分の命が終わるときだっていう考え方がミャオ族にはあるんですよ。だからどこか一つ絶対にわざと刺繍のパターンを変えたり隙間をわざと開けたりして、完璧に作れるのに作らないんですよね。常にそこに余白を残すことによって生命の終わりを迎えないようしているんでしょうね。彼らの世界はアニミズムの世界ですから、目に見えない悪いものがいっぱい周りにいるのを感じるんでしょうね。そういう意味で刺繍にもそういう思いを込めているし、信仰みたいなものを彼ら大切にしていますよね。
「坂井さんは、へそ曲がり?」「強いものより弱いものが好き」
―坂井さんは、なぜミャオ族のような少数民族に惹かれたのですか。
たぶん自分の性格っていうか、ちっちゃい頃から元々へそ曲がりというか、みんなが右って言ったら僕は左が好きだし。強いものより弱いものが好きだったりとか、そういうひねくれた根性はたぶん昔からあったんでしょうね。そういう中でやっぱりみんながやるものは嫌だとか、みんなが行く方向は嫌だっていうのがあったし、そういう時にミャオ族の刺繍と出会って、なおかつ彼らが歴史の中でそういう過酷で迫害されていた時期があって、ミャオ族は弱い人達だったわけですよね。やっぱりどうしても心情的に惹かれるというか、尚且こんだけ素晴らしい技術を残しているわけですから、たぶんその辺からミャオ族に限らず少数民族全体に、魅力を感じるようになったと思いますけどね。だけどたぶん元々は僕のひねくた性格でしょうね。
―ミャオ族以外で今後アジア以外でも掘り下げていきたいところってあるんですか?
基本的にはアジアでしょうね。アジアの中を深く狭くになっていくと思うんですよね。たとえば中国以外であればミャンマーとか、まだ中国に比べたら品物も残っている気がするし、技術ももっと高いですし、だから進むとすればそういう方向だと思います。ミャオ族以外でも世界にはもっとまだ知られてないすごい技術を持った民族や場所があって、でもこのままいくと知られないまま埋もれて衰退してしまう様なものがまだあると思うんですね。まあ、微力ですけど、そういった少数民族を皆さんに知ってもらえるようなPRになればと思いますね。かと言ってそんなにメジャーにはなってほしくないしね。 知る人ぞ知る、その中でやっていければいいような気がしますけどね。
今回のミャオ族の刺繍展で、私達は坂井さんを通してミャオ族の想いも知ることが出来、そのミャオ族と通して坂井さんの人柄を知ることができた。
今回の記事には載せていないがインタビューの中で坂井さんは、ミャオ族の刺繍をできる女性に高齢化によりこの刺繍の技術が若い人々に受け継がれていくことは難しく、この素晴らしい刺繍技術はおそらく衰退してしまうであろう…と、物寂しく言っていた事が印象に残っている。たしかに、現代の中国は抗えない近代化の大きな波や経済至上主義などの背景の中で、本来技術を引き継ぐべきである若者は現金収入を得る為に村を出て都市へ行ってしまう。そんな状況の中、途方もない時間と労力を必要とする彼らの刺繍を継承して行くことはきっと困難であろう。
何千年もの前に漢民族に敗れ山岳地帯に追いやられ、長きに渡り迫害され続けながらも心優しいミャオ族。決して王への献上品や商売のためではなく、守りたい我が子や家族がいるから祈りとともに施された刺繍たち。
私達には坂井さんは、ミャオ族の刺繍がチョウチョお母さんのように大きく羽を広げ、ふたたび空高く飛び回る日が来る事を待ち望んでいるように見えた。もしくはいつかミャオ族の刺繍がこの世から消えてなくなってしまう日が来てしまっても、せめて一人でも多くの人の心中に彼らの刺繍技術と彼らの想いを記憶として残してもらえるよう、謙虚にしかし強い意思でミャオ族と向き合っているように私達には思えた。
ちょっと言いすぎかもしれないが、坂井さんは「弱きを助ける、少しだけヘソ曲がりな心優しいヒーロー」なのかもしれない。
中国少数民族の服飾Miaomiao
坂井 昌二
福岡県出身。学生時代から中国文化の興味を持ち、ミャオ族に出会い彼らに魅せられ30代に会社を辞め、中国少数民族の文化に陶酔する。年に数回中国貴州省に出向き買い付けをし、中国少数民族のモノツクリを世に伝え続けている。彼を信頼する日本のコレクターは多く、PORTER CLASSICの創立者 吉田克幸氏とも親交が深い。
miaomiao@onyx.ocn.ne.jp